世界コンピュータ将棋選手権のアピール文書はいつから必要になったのか

ちょうどいま世界コンピュータ将棋選手権が開催されているのでアピール文書のことを書いてみたい。


世界コンピュータ将棋選手権のアピール文書はその将棋ソフトのオリジナリティを主張する部分であるが、上位ソフトのアピール文書には革新的なアイデアも多数盛り込まれているので非常に将棋ソフトの開発において参考になることは言うまでもない。


このアピール文書の提出が義務づけられたのは2010年のWCSCからである。2009年1月にBonanzaソースコードが公開され、様々なソフトがこのソースコードに影響を受け、場合によってはこのソースコードを丸パクリするようなソフトが出るのではないかと懸念されたためである。


…かどうかは知らないが、まあ、そんなところだと私は想像する。


例えば、Spear自体は2009年5月の段階でBonanzaのfv.binと同じ評価関数(パラメータの値は異なる)を用いている。


Spearがfv.binを同梱している件
http://d.hatena.ne.jp/LS3600/20091217


私は上の記事を書いたとき、その経緯は知らなかったが、Spearの作者であるグリムベルゲン博士の以下の自戦記を読むともう少し詳しいことがわかる。
http://www2.teu.ac.jp/gamelab/SHOGI/CSA2009/19csa.html


・もともとSpearはCrafty(チェスの強豪ソフト)を参考にしていた
BonanzaソースコードもCraftyを参考にしていた
・そこで(博士は)楽々Bonanzaソースコードを読み解くことができた
・Spearのデータ構造等はCraftyのものと同じなのでその結果としてBonanzaと非常にソースコードが似ている


という状況があって、その上で、評価関数の形とBonanzaメソッドで学習する部分だけ移植してきたのだと思う。


しかし、翌年の2010年5月のWCSCのアピール文にはこう書いてある。
http://www.computer-shogi.org/wcsc20/appeal/SPEAR/SPEAR.txt
> However, the evaluation function used in Spear is completely different from Bonanza


2010年には評価関数(の形自体)をBonanzaとは全く違うものに変更しているようだ。
ちなみにWCSCでのSpearの成績は2009年は9位、2010年で15位。順位が落ちている。
※ 他のソフトが強くなっていることもあるので、評価関数を変えたから棋力が弱くなり、順位が落ちたとは言い切れないが…。


ちなみに2011年以降、SpearはWCSCには出場していない。評価関数を独自のものに変更したら去年のものより弱くなったし、Bonanzaと探索部が似すぎていて独自性も見いだせないから開発するモチベーションが保てなくなったのかなぁと私は思うのだが、真相は定かではない。


そのへんの経緯はともかく、アピール文書の提出が義務付けられるようになったことは将棋ソフト全体にとって喜ばしいことであるということでこの記事を終りにしたい。